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登場人物
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#1 Happy dream

エーリが、部屋で目を覚ます。同室であるはずのリュカの姿が無い。早起きしてどこか出歩いているのだろうか。

「リュカさーん…」

朝食の時間まで一人になってしまうのは寂しい。心細くなって名前を呼びながら廊下をふらつく。

広間にもいない

中庭にもいない

教会にもいない

人がいそうな場所に顔を出しても、リュカは見当たらなかった。自分があまり行かない場所なのかもしれない、そう思い行くことの無い廊下の奥まで進んでみる。てっきりこの先は何も無いと思っていたが、遠くに小さく見えるものが扉だと気づく。そして馴染みのある匂いがする。リュカから香る匂いだ。おそらく、あの場所は喫煙室であると察しがついた。

「そういえば、リュカさんが煙草吸ってるの見たことない…」

いつも気を遣って自分の眠っている間に吸っていたんだろう。そっけない人だけど、やさしいひと。

「あ、僕に隠れて吸ってるのなら、来ちゃダメだったのかも!」

慌ててその場を離れようと振り返り、駆け足でまた静かな部屋に戻る。自分を気遣ってくれているのはわかっているけれど、なんだかさみしい気もする。夜はずっとそばに居るものだと思っていたから、居ない時があると思うと不安になってしまう。でも、心配してくれてるんだから、わがままは言っちゃダメだ。取り敢えず布団に潜って時間が過ぎるのを待つ。羊を数えて待っていよう。

 

「エーリ」

はっとして目を開ける。そのまま寝ていたようで、気づけば朝食の時間になっていた。

顔を上げると、向かいのベッドに腰掛けていたリュカが起こしに来てくれる。

「ありがとう…ございます!」

「うん」

短い返事しか帰ってこなかったが、頭を撫でて寝癖を直してくれる。エーリはそれが嬉しくて、にこにこしながら素直に甘えている。

リュカは、エーリのことを幼い子供だと思っている。見た目にそぐわず、精神はもっと幼い10歳ほどの子供だからだ。リュカは、エーリの奇病について教えて貰っているが、自身の素性については明かしていない。明かしたらそれこそ彼を追い詰めて、花を散らしてしまう。この些細な気遣いが、病気という脅威を和らげられるのかはわからないが、しないに越したことはない。寝癖も直ったし、ご飯を食べに行こう。

_____

 

朝食を済ませると、教会の中心にロコ神父がいるのが見える。白髪の青年と一緒のようだ。

 

「こんにちは。体調はお変わりないですか?」

そう笑顔で挨拶をする。

隣にいる青年も「こんにちは〜どうしたの?」と声をかけてくる。

 

「こっ、こんにちは。ロコさん…とすみませんお名前が分からなくて、貴方はどうしてここに?」

リュカが戸惑いながら質問をする中、エーリはリュカの後ろから小さく挨拶をする。

 

「僕はエファー・レーゲン、エファーって呼んでくれていいよ。僕はね〜、神父様のお手伝いしてるんだ」

白髪の青年がそう言うとロコも続けて話す。

「そうなんです。朝食を手伝ってもらっていて…」

「実は料理の味付けが、その、個性の強い味になってしまうんですよね…?」

エファーがロコを見て苦笑いをする。

「エ、エファーさん、ですか…お料理、じょうずなんですね…」

エーリは興味深そうに顔を出して話す。

「上手ってほどではないけど、人並みにはいろいろできるよ。

生まれたのが荒れたスラム街でね…1人で生活してきたのが長かったから。今はこうやって平和に暮らせてとても楽しいよ。」

へら、とエファーは至って気にしていない様子で笑っては昔話をする。

 

「すらむ……?__あ、前に本で読みました…すこし怖い場所、ですよね……」

 

エーリは頑張って思い出しながら話をする。

 

「エファーさんも大変だったんですね、

…この国は弱者に優しくないから」

リュカもエファーの話に相槌を打つ。

 

「料理…凄いですね、僕は全然しないので…個性の強い味ですか、それはそれで少し気になるというか」

 

リュカはロコの料理の話を聞いておかしそうに笑って話す。

 

「食べたいのなら神父様に頼んだら作ってくれると思うよ。壊滅的ってわけじゃないんだけど、最後の味付けを失敗するから台無しになっちゃうんだよね。味付けがどれも濃すぎて食べれないから」

 

「最初は私も味がおかしいと気づかず、みんなにごはんを出してたんですが、あまりにみなさんがしょっぱい、からい、甘すぎと仰るから、とても驚いてしまって…

それはいけないと思って手伝ってもらうようになったんです。お恥ずかしい」

ロコが不甲斐ないといった表情で落ち込む。

 

「神父様は、味付けが濃い方がお好きなんですね…!」

エーリは少し楽しげにくすくすと笑いながら話す。

 

「好き…これが普通だと思っていたので、そうなのかもしれませんね。みなさんに頼られるようにはなりたいんですが、なかなかうまくいきませんね…」

そうロコが頭を悩ませて話していると、『しんぷさま』と子供たちに声をかけられる。ロコは失礼します、と二人にお辞儀をするとそのまま子供たちの元へ行く。

 

ロコを見送ると、エファーが二人に話しかける。

「君たちはここに来てしあわせかい?」

 

「僕自身が幸せだとは特に思わないけど

…誰かの幸せに手を貸せたらと思うよ」

リュカは少し考えた後にそう答える。

 

「しあわせ、は…よく分からない、です……でも皆さんと一緒に遊んだりお話をしたり出来るのは“うれしい”です…から……」

とリュカの顔を覗きながら答えると、それに戸惑いながらリュカは『どうかした?』と声をかける。

 

「素敵な返事だね。まあ、今幸せかどうかなんて分からないよね。そういうのって、後々分かってくるものだし」

エファーは二人の返事を聞くと、うんうん、と頷く。

 

「ごめんね急に、今のはちょっとしたアンケートだよ。僕はね、ここに調査で送り込まれたんだ。近年ここに人が増えすぎているから不審に思ってる人もいて」

 

「アンケートだなんて言われたら、いっそ幸せだって言っとけば良かったかな?」

リュカは皮肉気味に笑ってそう言う。

 

「はは、それはわかりやすくて助かるな。ちゃんとその他にチェックしておくよ」

エファーもそれを聞いて軽口で返す。

 

「そういえば、エファーさんはいつからここに?」

リュカが気になり質問をする。なんだか、さっきの親しげなやり取りを見ていると、彼は自分たちよりも前からここにいるように見えた。

 

「そうだね、たしか…7.8年くらい前からいるよ。教会の変な報告があったのがその頃だったからね」

 

「変な報告って?」

気になる言葉にリュカが質問をする。

 

「…この教会に来る人は絶縁されていたり、家族と一緒だけれど、時々、自分の子供を危険から守るために子供だけを教会へ送り出す人もいたんだ。その親が、子供の遺骨が欲しいと頼んだんだけど、断られてしまったらしい」

 

「それについて神父様に聞いても、知らない事だとしか言われないし。こんなこと君たちに言うのは、申し訳ないけど、僕は神父様のことが怪しいと思ってる」

 

「…初めて聞いた、

怪しいと言えば確かに怪しいね、

悪い言い方にはなるけど、たかが骨に利用価値があるとは思えないんだけど、何か事情があるのかな…」

リュカがそう考えている間、エーリはむずかしいといった表情をしながら話を聞いていた。

 

「調査してるけど未だに原因不明、死体放棄もないみたいだし、一体どこに…

事情があるにしても、人に言えないんだろう。少し、気味が悪いな、…急にごめんね、注意した方がいいって警告だったんだけど、悩ませてしまったかな」

 

「協力してくれてありがとう。もしよかったら、食べたいものがあれば明日作ろうと思うんだけど、なにかあるかい?」

 

「…心に留めておくよ。

そうだな…タルトタタンとか、もちろん暇ならでいいんだけど」

とリュカは話す。

 

「……!!たるとたたん…!!」

その後ろでエーリはお菓子の名前を聞くと目を輝かせている。

 

「ふふ、甘いものが好きなのかな?うん、わかった。食後に持っていくから楽しみにしててね」

__________

少し前の話をしよう。二人の約束のはなし。

ふたりがペアに決まってから数日後、リュカが小箱を持って部屋に入ってきた。綺麗に梱包された新品のなにかを持っている。

「それなんですか?」

机に箱を置くと、硬いものがぶつかる音がする。割れないようにクッションに包まれた手のひらほどの大きさの物を取り出す。

「ロコさんに頼んでいたのが届いたんだ」

取り出したそれは金色に輝くハンドベルだった。リュカはそれをエーリに渡す。

「演奏するんですか?」

リュカは首を振る。よくわからないままハンドベルを手に持つと、説明を求めるようにリュカを見つめる。

「エーリは、記憶とともに感情も、わからなくなっちゃうだろ?」

「……そう、なんでしょうか?」

「うん、ほら、手帳」

エーリとリュカは記憶を共有するために、日記とメモをつけることを二人の決まりにしている。

「もし辛くなった時に助けを求められないかもしれないから、その時が来たらこれを鳴らして」

「鳴らせる、でしょうか…辛くも悲しくもなくなってしまったら、どうしよう」

「念の為聞いておきたいんだけど、もし感情が喜楽だけになったとき、どうして欲しい?」

「それはいいことだと思うけれど、悲しいことです。それは人じゃなくて、お花になったみたいだから。

 

「だから、もしそんなことになったら、ぼくを救ってください。」

_____

 

バルコニーに出ようと扉を開けると慌ててリュカが声を上げる。

「だ、だめだ!」

なんの事かと困惑していると、煙草の匂いと揺らめく煙が見えた。はじめて吸っているところを見て、思わず凝視してしまうが、次第に目が痛くなる。リュカが離れるより先にエーリの両目からほろほろと溢れるように花びらが散る。

「…?なに、これ痛い…?」

「煙草の煙は目に染みるから、涙が出るんだ、良くないから早く部屋に戻って…」

なるほど、と理解をしたあと花びらを止めようと奮闘するが、止まらずただ静かに花びらを散らす。

「ぼくはここにいます」

エーリはそう言うとリュカのカーディガンを掴んで離さない。

「どうして、このままじゃ忘れてしまうよ」

暗い夜の中、月明かりに照らされてふたりだけは明るく見えた。目の前の彼は自ら病気を進行させているというのに、綺麗な情景だった。

「部屋にひとりでいるのは、なんだか涙が出るんです、なんででしょう」

「そうだったのか、ごめん。僕も戻るよ」

戻ろうとするがエーリが扉の前を退いてくれない。

「なんだか、よくわからないけれど、このまま煙を浴びていたいです」

「な、なに、言ってるの…良くないって…」

エーリ自身もよくわかっていない様子で首を傾げる。しかし、本人が希望しているのだから、無闇に部屋に返すことも出来ない。

「本当に、良いの」

エーリはそれに黙って頷く。普段より心做しかエーリの表情が固い。着実に忘れているのが目に見える。

「あ」

エーリは、目を見開いて気づいたようにリュカを見ると、柔らかく微笑む。

「奇病で苦しんで記憶を失うよりもリュカさんのにおいで忘れちゃうほうがぼくはこわくないんだ」

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あのバルコニーで会話をした夜、リュカは火を消した。あの子とエーリが重なってしまい、耐えられなかったのだ。何も変わっていない、変われていないと思った。

あれからまた日記とメモを読んで、エーリは元に戻っていった。何度忘れても新しく覚えて元に戻そうとする姿は、テセウスの船のようで、素直に喜んでいいのかわからなかった。でも、彼は彼だと受け入れていった。

 

数日後の夜、エーリに一緒に散歩をしようと言われた。この子は、子供っぽいけれど自分から物を言うことが少ないから意外に思いながらも着いていく。

「行ったことのないところに行きたいです」

「どこだろう。僕も教会を全部知ってるわけじゃないから…」

ただ歩いてるだけなのに、エーリは楽しそうだった。特に目新しい場所はなく、最終的に教会辿り着いた。お祈りでしか訪れないため、よくよく観察してみれば何かあるだろうと希望を求めてやってきた。

「ねえ、リュカさん」

「なに?」

エーリがカーディガンを引っ張る。指を指す先には暗闇に紛れて扉が見える。

「あれ、何の部屋?」

「入ったことない…」

ふたりで目を合わせると、探していたものはこれだと扉に近づく。そっと扉を開けると、そこは懺悔室だった。天井にはたくさんの天使が描かれている。狭く、刑務所の面会室のようだ。手持ちの灯りのみが部屋の光源である為、薄暗い。扉が着いており、小窓越しに向かい合って座れそうだ。

「リュカさん、ここ、なんですか?」

「…ここは、」

純朴な顔で覗き込んでくる。しかし言葉が詰まる。

「罪を打ち明ける場所、だよ」

「つみ…?」

「悪いこととか…隠し事や嘘をついたことだよ」

それを聞いてエーリが口をパクパクとさせる。

「そ、それなら、僕もいわなければいけません…!」

「エーリにもあるの?」

驚きながら聞き返す。この子になにか嘘なんかつけただろうか。

「ど、どうしよう、お話、した方がいいですか?」

「僕には分からないけど…君がいいなら」

慌てながら右往左往するエーリを見て、椅子に座るように促す。

「ぼ、僕、リュカさんに嘘をつきました」

「…なに?」

まあ、そうだと思ったけど。嘘をつくほど話をしている人物が限られているんだから、検討はつく。一旦聞いてみることにする。

「その、あの、今日のお散歩なんですけど、本当はお散歩じゃなくても良くて」

「……うん?」

「ただ、夜ひとりになりたくなくて、お散歩って言えば来てくれるの、かなって……我儘なんです」

「それくらい、」

わかっている、と言いたかったけれど、彼にとっては精一杯の嘘だったのかもしれない。今となっては嘘を利用して生きているが、彼の精神年齢の時はまともに嘘もつけないだろう。

「素直に言ってくれてありがとう」

「わ、これでいいん、ですか?ざんげ、って…」

心配そうに見つめてくるエーリに頷いて見せる。

「もしもさ」

一息ついて、リュカが声を発す。この部屋に辿り着いたのは運命なのかもしれないな、と思う。

「僕が悪い人だったとしたら、君はどうする?」

「リュカさんが?」

驚いて目を見開いて少し考えるが、すぐに落ち着いた表情に戻る。

「でも、リュカさんは他人を傷つけるような人には見えない」

「本当にそう思う?」

「…だって、本当に悪い人だったら、僕の前でタバコを吸わないように、わざわざ夜に出かけて外で吸わないでしょう?」

「…煙草は特に君にとって害になるだろうから」

「心配して、喫煙所とか、外で吸ってくれていたんですよね」

エーリはうんうんと頷く。

「…怖くないの、僕が酷いことをするって分かっても」

「もしも、悪い人だったとしても、なにか理由があるはず。僕は、そういう人だと思うから」

「君は優しすぎて心配だな」

_____

毎晩、図書館に通っていた。奇病についてと、エーリに読み聞かせるためだ。

「図書館に行くけど、一緒に来る?」

「もう大丈夫」

それは、屈託のない笑顔だった。この子は笑顔が似合うが、遠慮しているのかもしれない。

「すぐ戻るから」

そう告げると急いで暗い廊下を歩く。一本道の長い廊下は闇に吸い込まれそうになる。図書館に本を返して、気になる本を持って帰る。いつものことだったので早々に済ませて部屋へ向かう廊下を歩いていた。

真夜中、鈍い音がした。しかし、重たい音に混ざってベルの音がしていた。扉を開けた先には、割れたベルを持っているエーリが居た。床に破片が散らばっている。エーリの方を見ると嫌でも目に入ってしまうのは、ベッドにある大量の花びらだ。

「これ、なあに?」

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ああ、彼は花になってしまったのか。そう思った。きっと彼は、ベッドで苦しんで泣いた後、ベルを鳴らそうとして、そのまま落としてしまったのだ。どうして言ってくれなかったのか、そう思っても彼の性格をよく知っているリュカは何も言えなかった。エーリは優しい子だから。

「なんでもないよ」

割れた破片を気にせず、エーリを抱きしめる。また、ここまで来てしまったら直したとしても完全に戻ることは無いだろう。それに、ベルは鳴ってしまった。

 

そのまま手を引いてエーリを連れ出す。終始、落ち着くと言ってリュカのカーディガンを掴んでいた。

広間に辿り着くと、向かい合わせに席に座り、彼に飲み物を出す。甘い香りのする美味しそうなジュースだ。すっかり少年となってしまったエーリは、何も気にせずに飲み干す。それは、嬉しそうに飲んでいた。

「おにいさん、どうして、こんなにやさしくしてくれるの?」

「…おにいさん、かなしいの?」

「ううん、悲しくないよ。笑ってるだろ」

それを聞いてエーリは不思議そうな顔をする。ああ、だめだ。彼には笑顔で居て欲しいから。

リュカはエーリの頭を撫でる。そうすると瞼が落ちていく。まるで眠るように、頭を撫でられて幸せそうに机に倒れ込んでいく。

「…エーリ、おやすみ」

_____

 

リュカはある部屋をノックする。開いた扉からはロコが出てくる。夜の影を映して顔が曇っているリュカを見て、何も言わずに待つ。リュカは手に持っていた1枚の紙切れを差し出す。

「受け取りました」

大切に受けとり、紙面に目を通している最中、リュカが話す。

「ロコさん、僕もあの子たちの所へ、連れて行ってくれ」

 

教会を出て、近くの小屋に訪れる。

 

「最後に聞きたいことがある」

見知らぬ小屋の前でリュカはロコに話す。

 

「██を知らない?」

そう告げた名前は、リュカの大切な存在の彼女であった。

「……いいえ?」

ロコはその名前を聞いたことがなかった。どうしてそんなことを聞くのか、不思議に思いリュカを見るが、深刻そうな顔をしている。

 

「で、でも、彼女は家も出て家族も友人もあてがないんだ。ここじゃなかったら、どこに…」

 

「それに、彼女は奇病患者だった。遠くになんて行けない」

 

「……お心苦しいのですが、きっと、彼女は別の場所で息絶えたんでしょう」

 

「きっと、君は間違えたんでしょう。相手が助けを求める時は戸惑っては、迷ってはいけない。

手遅れになってからじゃ遅いんです」

苦しそうな顔でそう呟く。

 

「彼女に、彼女に会わせて下さい」

襲いかかる後悔に押し潰されそうになりながら、ロコが扉を開ける先に進む。

 

その先はダチュラの花を天井いっぱいに敷き詰められた部屋だった。

 

見渡しても入ってきた扉以外に窓も扉もない、真っ白な部屋だ

 

「この部屋にいれば、会うことが出来ます」

そう言うと、ロコは扉を閉める。

 

しばらくすると、視界が揺らいでいく。なんだか気分が悪い。これは、毒…?

 

「リュカ、こっち!」

そう気づくと同時に、声が聞こえる。

もういるはずの無い、彼女の声だ。

 

「な、なんで……ここに」

「ねえ、鬼ごっこしよう」

彼女はリュカを置いていって広い草原を走る。

 

「待って!」

草も花も踏み締めながら彼女を追いかける。景色は、草原から街へ、街から繁華街へ、そして眩しく明るい景色へと映り変わった。その明るい世界は、どうやらサーカスのテントの中のようだ。

 

賑やかな声に、リュカの彼女を呼ぶ声が掻き消される。客も皆、二人のことなんて気にせず演者しか見ていない。

 

走っても走っても、彼女に追いつけない。むしろ遠く離れていく。叫んで手を伸ばしても届くことがなかった。

走り続けていると、とうとう足がもつれて転んでしまう。

 

一気に視界が暗くなる。目を開けると、床には血溜まりが広がっていた。手元には見覚えのあるナイフがある。

これは、彼女の両親を殺した時に使ったものだ。

 

少し遠くを見やると、2つの死体がある。

過去の記憶が蘇ると、現実の身体に異常が現れる。鼻血と吐血が止まらず、血の気も引いていく。

 

これは、夢を見ている。

そう彼女の家族を殺した日、

僕が彼女を救った、つもりだった日の夢

 

「僕たち、ほかに方法があったのかな」

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首が絞められているように苦しくなる。きっと、彼女も同じ思いをしたのだろう。

きっと、彼女はどこかでしんでしまったんだ。僕が、殺せなかったから…

きっと、どこかで、ひとりで___

Relief execution
救済執行

Jasper: Lucas=Corneau
Carnelian: Eri・Helianthus

End:Happy dream

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