top of page
登場人物
IMG_2095_edited.jpg
IMG_2097_edited.jpg

画像クリックで詳細へ

#5 Daydream

もうすっかり人がいなくなってしまった。確認できたのは自分たちを入れて7人しかいない。ラインハートとシルバールイン。そして教会の医者と茶髪と紫髪の男女。

 

最初は葬儀に参列していた医者も、来なくなってしまった。6人では余り過ぎている広い教会で葬儀を行う。

 

「先日、ガーラント・ソレルさんが旅立たれました。彼のジャスパーであるパトリシア・グウェンさんは役目を果たしてくださいました」

 

いつも通り、挨拶をして、いつも通り、花を手向けて、いつも通り、いつも通り

 

「ねえ、話があるの」

 

部屋に戻ると、ミラがジェフに声を掛ける。

 

「パトリシアが、いつも診察に来ていたのは覚えてるわよね」

「ああ。いつも大変そうだった」

「それが、一昨日診察でもなく、伝えたいことがあるって部屋に来て…」

「墓場を確認したら、誰かが死体を持ち出して利用してるって言われたんだ。それに、神父の可能性が高いと。パトリシアなりの警告だったんだろう」

 

突然の話に飲み込むことができなかったが、パトリシアの性格を知っている身からすると、冗談を言うようには思えない。

 

「神父が、何か企んでるってことでいいのか」

「そうだと思うわ…気付かれないためか、そのまま言ってしまったから何も聞けなかったの」

「どう思う」

「きっと、止めて欲しかったんだと思うわ。アイツが正義感が強いのは、よく知ってる」

 

ミラは、彼女の鬱陶しいほどの生真面目さと命に対する真剣さをよく知っていた。しかし、ミラは神父のロコのことをよく思っているし、尊敬もしていた。今まで世話になってきた人物をそう易々と裏切るというのには、抵抗があった。

 

「まだ、わからないから信じることはできないけれど、パトリシアの言うことも気になるの。だから、アタシと一緒にこの件について調べて欲しい」

 

切なる願いを込めて、ジェフを見上げる。

 

「命じてくれ、俺はミラの望むままに」

 

ジェフとしては、神父の犯罪者にも与える優しさがどうも理解できず、裏があるのではないかと疑っていた。それについて知るちょうどいい機会だと思った。

 

それから二人で教会を探索するようになった。この教会についての文献を探し、神父の前任が同じセレナイト名であることがわかった。

 

そして、この教会にやってきたころから、教会がやけに暗いことに気づく。わかっていたはずだが、あまりに当たり前すぎて気に留めなかった。

 

「…そういえば広間も教会も、カーテン閉め切られてるわよね」

「確かに。来た時からそうだったな」

 

そう言われて教会の二階に上がって窓を覗きに行く。しかし、カーテンを開けて見えたのは外の景色ではなかった。

 

「え…?」

 

窓が木の板で塞がれていたのだ。今まで誰も、教会が安全な場所だと思い込んでいて、疑いもしなかったのだ。それに、危険だとわかっていても、奇病が蔓延して救いようのないこの国の住民は、気にも留めないからか。

 

「なんなのこれ」

「ミラ、ちょっといいか」

 

打ち付けられた木をこじ開けようとするジェフを慌ててミラが止める。

 

「や、やめて!危ないわよ!」

「そうか…?」

 

他の窓も確認してみても、宿舎と中庭以外の窓は同じく封鎖されていた。そして、教会のステンドグラスだけ、色が混ざり合った光を教会へ送り込んでいた。アタシたちの周りを照らしていたのは、頼りのない蝋燭のみだったことを思い返す。

 

「なんの理由でこんなことを…」

「これも神父の仕業だろう。それなら、外していた方がいいんじゃないか。俺たちにはわからない理由があるんだ」

 

その後、二人は半月をかけて深夜に全ての打ち付けを取り外した。気づかれないように慎重に行った為に、数は多くないはずが時間がかかってしまった。

 

「これで何か変わるのかしら…?」

「きっと何か変わるさ」

 

夜に教会を探索していると、気配を感じる。しかし、視認ができない。

二人の目の前に、暗闇に紛れて何かがいる。

ジェフはミラを庇うように、警戒心を顕にして前に出る。

 

「守られるほど弱くないし、怖くもないわよ!」

 

そういいつつ、話が通じるかもわからないそれに恐怖心を感じてジェフの服の裾を掴む。

その生物は、その場から動かずに距離をとったまま、二人に話しかけてくる。

 

「攻撃するつもりはないからそんなに身構えなくていいよ」

 

手を振ってるのか、影が動いて見える。

 

「何よ、人間じゃない…驚いて損したわ!それにしても遠い所から…もう少し見やすい所に来なさいよ」

 

ミラは、人間と分かれば手をパッと離し、いつも通りの態度で話しかける。

 

「……噫、人間だったか。ならば少々安堵出来る。そう簡単に信じる事は出来ないが…そうだな、…であれば信用する為にも俺だけ姿を見ても構わないだろうか。其れで判断したい」

 

そう話しながら、離れたミラの手を一瞥する。

 

「ははは、ごめんねえ、まっくろだから驚かせちゃうんだ。ん〜ここじゃだめかい。話すだけならいいでしょ。それに見ない方がマシだと思うよ。」

 

「うーん、仕方ないな…」

 

そう言って暗闇から出てきた姿は、人間からしては大きく見え、300cmほどあると感じる。髪は黒く長い、服も真っ黒、そして顔も空洞のように真っ黒。腕足胴体頭と、人間の形はしているが、その容姿は人間離れしていると感じる。

 

「アンタだけってまたアタシの事を子ども扱いしてるわね…!」

 

子供扱いされることが苦手なミラは、ジェフを見上げながら悪態をつく。

 

「………子供扱いでは無く女扱いだ、其れに…敵意が無い事は理解したが…貴様何者だ。その容姿、どう見ても"人ならざる者"だろう」

 

人間だと安心するミラに対して、目の前に居るの人間ではないとぼやかしながら伝える。

 

「ふん、それなら良いのよ。悪かったわね疑って。……人間じゃないの…?なんでそんなのがここにいんのよ…」

 

人間ではないと伝えられると、ジェフの隣から離れず横目で確認をする。

 

「人ならざるものか、答えられないけど、そう思うならそれで構わないよ」

 

この黒い存在が前に出てきたことで手に何か持っているのがわかる。警戒を緩めずに、黒い存在と対峙するが、手に持っているものがとても小さいものなので武器ではないと推測する。

 

「…別に構わん。…そうか……手に持っている物は何か、教えて貰っても?」

 

ジェフは、視線で手に持っている物を指す。

 

「ありがと、アイツ何か持ってるの…?変なのじゃなければ良いんだけど…」

「…変なのかどうかは分からないな。見たところ大きさからして武器では無さそうだが」

 

ミラに軽く武器では無いことを説明しつつ、目の前の方に視線を向け直す。

 

「おっと、見えてしまったか。これはね、うーん。君たちがどうなのか分からないんだよねえ」

 

少しの沈黙の後、言葉を続ける。

 

「知らなかったらいいんだけど、ジャスパーって言葉に聞き覚えは?」

 

少し悩んでいる様子で質問をしてくる。

 

「………。聞き覚えなら有るが、…其れと関係があるなら…是非教えて貰いたいものだな」

「アタシは…聞いた事ないわ、どういう物なの?」

 

ミラは武器を持っているのではないとわかると、ゆっくり黒い存在がいる方向に体を向ける。

 

「おや、おや…知らない人がいるなら、困ってしまうなあ、特に君が。あの子の代わりに持っているとだけ言おう」

 

黒い存在は、君と言いながら、ジェフの方へ体を向ける。

 

「…………。ミラ、」

 

質問を意図的に無視をして、大きな影が此方を向いたことを悟れば、彼女の肩に手を置く。

 

「……"女性"には少々キツいかもしれない。少し此処で待っていてくれないか、……あの影と話がしたい」

「な、何よ。1人で行って大丈夫なの?危険かもしれないじゃない…アタシは経験豊富だからちょっとやそっとじゃ………、でもルイスがそう言うなら…待つわ」

「君は賢いね、話がわかって助かるよ。あまり公に言ってはいけないんだけど、僕と会ってしまったお詫びに教えよう。これはねえ、君たちがつけられてる首輪のスイッチって言えばわかるかな?」

 

黒い存在は、ジェフが一人で来るのを見ると「うんうん」と満足気に頷いて、手に持っている小さなスイッチを見せる。

 

「………。噫、やっぱりその類いか。無駄に抵抗をすれば首輪が絞まり絞殺される…だったか?敵意は無いのだろう。特段抵抗する気は無いが…」

「そうそう、本当にジャスパーなんだね。随分あの女の子に優しいから意外だなあ。どんな罪だったのか気になるな。使う時が来るまで使いはしないけど、あの子の代わりに僕が持ってるんだ。あの子じゃこれを使えないから…」

「……そう見えるだけだろう、己を非道な人間であるとは思わないが御優しい心を持った奴だとも思わん。……そうか。なら俺とてこれ以上興味は抱かんな。親切にどうも。俺からは以上だ」

「そうなのかい?厳しいんだね。いい判断だと思うよ、知らない方がいいことだってあるからね」

 

黒い存在は、喉を鳴らすように笑ってからまた闇に紛れるように歩いていく。黒い存在が消えていくのを確認すると、ジェフはミラの元へ戻る。

 

「ねえ、大丈夫だったの!?」

「ああ…話を誤魔化されて終わったな…」

「本当に大丈夫だったの…あ、別に心配なんかしてないから…」

「流石に今更訂正しても遅いと思うが…」

「うっ…、ま、まぁ…変な事言われたりしない?何かあればアタシに相談してよね。まさか突然変なのと会うなんて…酒でも飲みたい気分だわ」

「この通り何とも無いから安心してくれ。だが…そうだな、頼って良いというのであれば今晩は晩酌にでも付き合って貰おうか。良い酒を用意しておこう、どうだ?」

 

無表情ながらも、ミラを誘いに乗せようとする。

 

「晩酌…!いいわよそんなに言うなら付き合ってあげてもいいけど?どんなお酒かしら?気になるわ!」

 

簡単に誘いに乗るミラを見て、ジェフは変なやつに騙されてしましそうだと杞憂する。しかし、本人に言うと機嫌を損ねてしまうと思ってポーカーフェイスを保つ。お酒を楽しみにしている様子のミラと共に部屋に戻ると、酒瓶と、冷えたコップに氷の入ったグラスを持って席へ座る。相変わらず椅子に登るのに苦戦しているミラを見て、手伝おうかと思うが、以前怒られてしまったので控えることにした。

 

「いただくわね、乾杯」

「乾杯」

 

静かな2人の声にグラスの出す甲高い音がこだまする。ミラは意気揚々と酒を飲んでみたが、結局むせてしまい顰めっ面をする。しかし、自分の好きな酒な上、せっかく用意してくれた物だ。頑張って少しずつ飲むことにして、飲み干した後にジェフの方を見てぎこちない笑顔を見せる。

 

「ミラ、やっぱり」

「いいのよ!とっても美味しかったわ。も、もういっぱい貰おうかしら…」

 

そういうミラに、心配そうな視線を送る。そして黙って席を立つと、もしもの為に用意していたウイスキーボンボンを持ってくる。

IMG_2103.JPG

「うっ。子供扱いするんじゃないわよ!」

「しかし、無理は良くない」

「でももっと他にあるでしょう!」

「そうか、それはすまなかった…次はカクテルでも持ってくるとしよう」

「それならいいわ、ふん」

 

不満そうな顔でミラはウイスキーボンボンを口に運ぶ。その隣で、我が子を見守るような目でミラを見るジェフだった。

 

____

 

「ちょ、ちょっと!ルイス!」

 

数日後、ミラが朝早くから大騒ぎで手紙を持ってきた。ジェフが渡された手紙を開く。封筒を見ても、差出人不明のようだ。

そこには、差出人がロコと親しい間柄の人物ということ、そして自分は俺たちの味方だということ、そして

 

「ロコは強い光に弱く、嗅覚も鈍い…?」

 

いったい誰の差金なのかわからないが、窓が厳重に閉ざされていたことの理由も納得できるし、確か神父は料理の味付けが苦手でエファーという青年に手伝ってもらっていると、誰かが面白そうに噂話をしていたのを思い出す。

 

「誰かの悪戯かしら」

「目的もわからない手紙だ。あまり気にしないでいい。これは俺が持っておく」

 

しかし、神父の弱点だと思われる情報を聞くと、昔の己の武器である炎がよく効きそうだと思った。

_____

 

ジェフが、ミラには内緒で、早朝から密かにケーキを作っている。今日は、ミラの誕生日だからだ。

まさか、ここに来て他人の誕生日を祝う時が来るとは思ってもいなかった。お祝い事とは無縁の場所である。スイーツを作るのが得意なジェフは、他でもないペアのミラのために作るケーキだと張り切っていた。

 

「おはようございます」

 

珍しく、ロコが声をかけてきた。ジェフの敵意に気付いているのか、普段から関わることが少なかったので意外に思った。

 

「何か」

「いえいえ、邪魔をしてしまったのなら申し訳ない。美味しそうな匂いがしたもので」

 

にこやかな顔でキッチンを覗くと、そのまま帰って行く。その様子に引っかかるものがあったが、気に留めず作業に戻る。甘いものが好きなミラには、チョコレートがたっぷりのケーキが良いだろうと、ふんだんにチョコレートといちごを用意した。

完成したケーキを冷蔵庫で冷やしておき、部屋に戻りミラが起きているか確認する。

まだ寝ている様子だったので、起きるまでコーヒーを飲んで待つことにする。今日はなにをしようかと思考を巡らせる。

 

「ん…なにぃ…」

 

目が覚めたのか、呻きながらミラが寝返りを打つ。

 

「おはよう、ミラ」

「随分早いわね」

「そうだな、いつもより早起きをした。

「珈琲を淹れるから、一緒に飲まないか?」

「ええ、いいわよ。気が利くのね」

 

ミラは、高い椅子によじ登って姿勢を正す。

珈琲を飲んで落ち着いた頃、ジェフが話を始める。

 

「今日は、お誕生日おめでとう、ミラ」

「……!覚えてたのね」

 

驚いて珈琲を飲んでいた手を止める。

 

「今日は、ミラがしたいことをしよう。何が良い」

「そう言われると悩んじゃうわね」

 

少し考えた後、思いつかなかったのか申し訳なさそうにミラが言う。

 

「ただ一緒にいてくれたらいいわ。少しの時間でも、アタシを一人にしないで」

「お安い御用だ。今日だけじゃなくとも、ずっと共に居る」

 

珈琲を飲みながら他愛もない話をして、食器を片づける。図書館へ本を取りに行った後、ミラが外の空気を吸いたいと、中庭へ向かう。暖かい日差しの中、ベンチに腰かけて二人で本を読む。何でもないことが、大切な時間に感じる。

 

「前読んだ本の方が面白かったわ」

 

そう言いながら、本の要所を見返しているミラが可愛らしいと思った。本を戻しに二人で歩き始める。

 

「次は、何をする?また本を読むのもいい、天気が良いしお茶会をするのも良い。部屋にある花も、ここに置いたら元気になるだろうな」

 

そう話しながら歩いていると、突然ミラが立ち止まる。

 

「どうした」

 

俯いているミラに気づくと、しゃがみこんで目線を合わせる。

 

「み、見ないで」

 

さらに俯いてしまうミラに、言われた通り、顔は見ずに話を聞く。

 

「アタシ、ずっと考えてたの、今日死にたいって」

 

ミラは、まだ話したいことがあるのに、涙が溢れて言葉が詰まってしまう。

 

「でも、こんなに幸せになってしまったの!ここに来て、寂しくも寒くもない幸せな生活を送って、何も後悔なんてない。こうやって、子供らしい幸せも知れたの。後悔なんてないのに…とっても悲しいの、アタシには未来なんてないのに、もうこれ以上生きていては、苦しむだけなのに…」

 

ジェフは、彼女を大人の女性として、泣き顔を隠すことしか出来なかった。

 

「最後だと思って何も言わずに、聞いてくれる?」

「ああ、勿論」

「アタシ…孤児だったの。1人で、生きてきた。その時ね、あるひとが現れて、アタシを助けてくれたの。それから…驚くと思うけど」

 

そう一息置いて続ける。

 

「20年、一緒にいたの。そしてその後、アタシが奇病にかかって、いなくなっちゃった。アタシの症状ってね、身体が若返るの。黙っていてごめん。なんとなく、誰かにアタシのことを、覚えていてもらいたかったの」

 

そう話し終わると、鼻を啜りながら呼吸を整える。子供の体躯では、息も吸いにくい。

「俺は、御前のために存在している。決して忘れない」

IMG_2128.JPG

「それが聞けただけで十分よ」

頬に手を当てて、共に呼吸をする。呼吸も落ち着いて、すこし腫れた目の顔もようやく見える。

「もう夕暮れだ、風邪をひく」

「ん?なに…ちょ!降ろしなさいよ!」

ジェフがミラを抱き上げて、キッチンへと向かう。ケーキを取りに行こう。本当はサプライズをしたかったのだが、本日のミラの命令だから仕方がない。ミラは着くまでの間、恥ずかしそうに丸まって、キッチンに着いた時にはすっかり小さくなっていた。

「着いた」

「そ、そう、早く降ろして…」

「悪かったな、少し待っていてくれ」

冷蔵庫からケーキを取り出すと、ミラが声を上げる。

「いつの間に?作ったんでしょう?」

「驚いて貰えて良かった。部屋で食べよう」

「はやく食べましょう!ありがとう、ルイス」

嬉しそうにジェフの後を着いて部屋に戻る。

ロウソクを立てて、マッチで火をつけようとすると、扉をノックする音が聞こえる。

「誰?」

ジェフが扉を開ける前に、部屋に入ってきたのはロコだった。

「何の用だ」

「いいや、私もお祝いをしようと思って…」

警戒するジェフを他所に、勝手に椅子に座り、置かれていたマッチを手に取る。

 

「神父様、知らない間に髪が伸びたのね」

「おや、私も気づきませんでした」

ははは、と違和感のある芝居がかった笑い方をして、時計回りに蝋燭に火をつける。

「変な事はするなよ」

そう忠告した後、ジェフは思い返す。あの謎の手紙によると、ロコは強い光が苦手ではなかったか?こんな間近で火を見て、平気なはずがない。いや、先程から何かおかしい。

「変な事って?」

ロコがマッチを指から離すと、床へ煙を立てて落ちる。

IMG_2129.JPG

嫌な予感が当たったと、それを見たジェフがミラを抱えて部屋を飛び出す。逃げる視線の傍ら、ロコが燃えているのが見えた。

 

「な、なんなの、あれ…」

 

ミラが怯え、震えた声でジェフの背後を見つめながら呟く。背後を振り返ると、先程までいた自分たちの部屋から、ロコだったものが出てくる。焼け爛れた肌から黒い皮膚が露わになり、身体中から煙が立ち上っていた。腰を曲げて出てきたそれが、廊下へ出ると背を伸ばし、自分たちを圧倒する。それは、あの夜であった影のようだった。

こちらを見て、目が合う。こちらに迫ってくるのを確認しながら、2人は必死に逃げ続ける。

 

「君たちが、これ以上詮索しないのであれば、僕はなにもしないんだ。どうかな、ここでこのまま大人しく暮らしていくというのは」

 

それはやはり、あの夜聞いた影の声と同じであった。

 

「お前のような奴がいる場所で安心して暮らせるわけが無いだろう」

「ルイス、アタシは今日死ぬんだ。もうこれ以上、あの頃に戻りたくない。だからもういい、アタシをここに置いていけ」

「ミラ、正直に言ってくれ。御前の命令で、俺は動ける」

 

諦めた笑顔をしていたミラが、驚いたように目を見開く。そんなことをジェフから言われたのが初めてだからだ。

 

「アタシをたすけて…」

 

教会を駆ける。途中で騒ぎに気づいたのか、他の住民ともすれ違ったが、影はそれを無視してジェフとミラしか見ていないようだ。

教会を出て、下の街へ降りて行った。

しかし、人がいない。血の跡が家の中から外へ繋がっているものが大量にある。途中で血が途切れているのは、持ち運んだからなのか。走る最中、見える家の中はほとんどが血まみれで凄惨な様子だった。

 

「ここまで、来てしまったんだね。もう君たちを見逃すことはできないな」

 

影が右に持ったボタンを見せて、スイッチを押そうとする。

 

「な、んだそれ」

 

ミラが震える声で呟くと、ジェフがミラを強く抱きしめる。次の瞬間、の首輪が絞まる。ジェフは、最後までミラを抱きしめていたままで、硬直する。ミラはジェフに守られたまま動けないでいる。

 

影の姿が近づいてくる、どうしたらいいのかわからずに、ジェフに縋り付いている。

 

「死ぬのはアタシだけで、ジェフは死なないんじゃないのか……?」

 

ただわからずに、問いかける。返事がないと分かっていても、わからないことが怖かった。

 

影の腕が振りかざされたと思うと、次の瞬間ミラの首にめり込み、首が落ちた。

 

「先生?なんで」

 

先程燃えたと思っていたロコが教会から降りてきていた。

 

Relief execution

救済執行

 

Jasper: Lewis Jefferson

Carnelian: MIRA

 

End:Daydream

  • Twitter
  • YouTube
bottom of page