#6 The middle of a dream
教会に隠されていた黒い影が現れたあの日から、二人の出会いまで遡る。
「神様がいるいないの話をしてるのは的外れだと思うんだ。。だって、信仰していても不幸になる人間、見たことあるだろう?結局、神様に嫌われているかいないかだと思うよ」
シルバールインの第一印象は最悪だった。僕が信者だと言うと、神は信じられないと真っ向に否定してくるんだから。それに、訳の分からないことをそれっぽく話すのが詐欺師の癖らしい。
「ごめんね、嫌われてしまったかな。僕も神に祈りを捧げてみることにするよ、嘘だけどね」
あはは、と軽快な笑い声をあげる同居人を恨めしく睨みつけた。先が思いやられる、そう思って机に座って紙に万年筆を走らせる。
「何書いてるの?」
「昔の知り合いに書いてるんだ。アンタには関係ないだろう」
「そういえば、昔は軍人なんだったね、その知り合い?」
「…そうだが」
「その人たちは君のことを覚えているの?」
「わからない。でも、知り合いの中で一番古い知り合いなんだ、だから…」
「覚えていて欲しいって思ってるんだね」
言葉を遮られてラインハートが少し嫌な顔をする。
「僕のことを知ってどうするんだ。救済が行われるまでの関係だろう、変に情なんて湧いても良いことはない」
「そうかな?僕は君をよく知って、仲良くなってから君を連れて行きたいんだけど」
二人の意見が合わないのは、制度に対する意識の違いからだ。シルバールインは、死ぬまで互いに幸せに過ごしたいと思っているし、ラインハートはただの利害関係だと思っている。
「第一、僕はアンタのことを何も知らない。いや、やっぱりいい…」
聞いたものの、嫌な予感がして制止するも、シルバールインは気にせずに話し始める。
「僕のことか、何から話そうかな。たくさん嘘はついてきたね。ああ、でも、嘘と本当のことを混ぜていたから、何も全て嘘ってことはないんだ。僕は人を幸せにするのが好きだから」
「本当か?」
「さあ」
「アンタなあ!」
空をつかむような態度に踊らされた気分になる。
「それと、綺麗なものが好きだよ。例えば君とかね」
ラインハートが首をガクンと落とす。彼と話すのは疲れそうだ。どうにも率直な愛情表現を受けるのが苦手だった。
「とにかく、キミは僕のことを覚えてくれさえいればいい」
「うん、絶対忘れないよ」
「どうだか」
「本当だよ。皆が忘れても、僕だけは覚えてるから」
「随分な自信だな。僕の奇病の厄介さを知らないのに」
「そりゃあ、君のペアだからね」
詐欺師だから当然だよ
___________
時間は朝。廊下に青年がいた。普段教会で夫婦一緒に仲良さそうな姿を見かけていたので、夫の方だとわかる。
「あ、おはようございます。邪魔でしたか?すみません」
二人を見ると、印象のいい笑顔で話す。
「おや、君は……」
シルバールインがにこやかに近づくと、ラインハートも話しかける。
「おはよう、今日は奥方と一緒ではないのだな。ドアの前で…何かあったのか?」
「ああ、特に喧嘩したとかじゃないんだ、大丈夫さ。ここ、彼女の部屋でね。俺は彼女が起きてくるの待ってるんだ。朝一番に俺が出迎えないといけないから」
「ふうん、そうなんだね。どうして出迎えが必要なのか、聞いてもいいかい?」
「アンタと意見が合うのは癪だが、確かにそこは僕も気になるところだな。毎朝待っているのか。流石に、大変なのでは?」
そうシルバールインが言うと、ラインハートも不思議に思い続ける。
「彼女は病を患っていてね、なんというか、その、笑わないで欲しいんだけれど、彼女は眠ってしまうと前日までの記憶を忘れてしまって、朝一番に見た相手をダーリンだと、思ってしまうんだよね」
困ったように笑いながら話す彼は、二人の言うように確かに疲労でやつれているようだった。
「成程、それで。
ここじゃあそういう人も珍しくないだろう。君はそれほどまでに彼女を愛しているんだね…とても、良い事だ」
相変わらずにこにこした顔でシルバールインは話す。
「記憶をって…。キミは、毎日愛するひとに忘れられてしまうということなのか。平気というが、愛しているからこそ…それは………」
ラインハートは、思うところがあるのか、言い淀みつつ顔に影がかかる。
「うん、彼女のことを愛しているよ。そう言って貰えると嬉しい。はは、言いたいことは分かる、優しいね。思い出話も出来ないけど、彼女との今を大事にしていこうと思ってる。そうだ、もし彼女が1人で出歩いていたら、俺が心配してると言って部屋に連れてきてくれないかな。俺もそばにいれない時があるかもしれない」
どうか、と聞こえぬ声が聞こえるほど切実な頼みに二人は頷く。
「キミは、前向きなんだな。うん、良い向き合い方だと思う。僕には……真似出来そうにない。…あぁ、そうだな。奥方を見かけた際はそう声をかけよう。微力ながら力になるとも」
ラインハートが彼の言葉を聞いて、感心をする。彼の苦悩は想像しきれるものではないが、それでも彼女と共にあることを、共存を選んだ事が、自分にはできない選択だと思った。
「うん、覚えておくよ。君の奥さんに会ったら伝えるね。消えてしまうのは嫌だよね、記憶であれ何であれ……自分の記憶がなくなっても、誰かが覚えていてくれるなら幸せじゃないかな。まあ、ろくでなしの僕には分からないけど」
シルバールインは肩を竦めながら、もしもの話をする。普通の幸せに縁のない彼は、いまいちピンとこないのだ、自分なりの幸せを作り出して、被害者に与えてきただけなのだから。
「覚えている側が苦しむこともある。この辺りの意見の差は、経験や立場の違い……か」
ラインハートは、嫌そうな表情を一瞬見せつつもすぐにそれを隠して、なにかを諦めた様子を見せる。
「彼女のことを覚えていてあげることが彼女の幸せになるか…素敵な事だね。彼女のことを絶対に忘れない、誓うよ。君たちも、俺たちみたいな教会へ逃げてきた人なのかい?」
ここまで話を聞いてくれた二人に感謝を述べると、二人を交互に見る。
「僕の場合は逃げてきた、とは違うだろうな。奇病を患ってはいるが、そのことで不当な扱いは受けなかった。ここには…まぁ色々あって、死ぬために来たんだ。ここは、ほらそういう制度があるだろう?」
「僕はまあ、捕まっちゃって。最後に少しでも、誰かの幸福の手伝いができればいいなあ、なんて思ってるよ、長くない命なら幸福にこしたことはない。それが自分の手によるものなら尚更。だろう?」
シルバールインが口の端を吊り上げて笑うと、茶髪の少年は困ったように笑う。
「君は楽しみながら犯罪をするタイプか、あはは、厄介だ。俺は、望まなくても結局彼女の命を奪う事になってしまう、俺の自分勝手な気持ちでね。どちらにしろ、犯罪者になってしまったし、故郷にはもう戻れないからここに来たんだ」
「あぁ、救済制度のことだ。キミたち夫婦も、この制度を利用して来ていたのだな。それにしても犯罪者になった、と言ったがそれは一体…?」
不穏な発言にラインハートが問いただす。
「言い訳に聞こえるだろうけど、彼女の為だったんだ。世間的には犯罪者として扱われてしまったんだけど。殺人…まではいかないし、誰も殺してないけどね。ただ、彼女の家庭に問題があって、彼女を連れ出した…いや、正しく言えば誘拐したんだ」
「それは…」
悪いのはどちらなのか、思わず考えてしまった。
「でも、彼女の命を奪うと言ったのは、どういうことなんだい。そのこととは関係がなさそうだけれど」
シルバールインが続けて質問をする。
「ああ、それは…俺は、彼女よりも歳をとっているし、それに生まれつき短命な家系なんだ。きっと彼女よりも早く死んでしまうだろう、それは、あっていると思う。だから、僕が死ぬ時に彼女も殺して、俺が、彼女にとってのダーリンのままで終わらせたいんだ。理解できないかもしれないが、それが俺にとっての…」
茶髪の少年は考え込んでから、また言葉を紡ぐ。
「彼女の意志も尊重すべきだと思うかい?もうそんなことできないのさ。ただ、彼女は俺を愛していて、俺も彼女を愛していることしか、それしかわからないんだ」
「愛すると言うことは、素敵だよね。僕は、そう信じているのなら、そのままでいいと思うよ」
「救済制度によっては、どちらにせよそうなってしまうしな…キミの立場を考えると、何も言えない」
二人とも、肯定とも否定とも取れない言葉をかける。きっと、今話していない災難も多かっただろう。そんな人物に、この場で答えが出せる訳もない。
「話を聞いてくれてありがとう。そうだね、俺たちは話し合うこともできないから、これを信じるしかないと思う」
そう茶髪の少年が話すと、彼女が起きた物音に気づき部屋に入っていった。諦めもせず、毎日通うその姿を想像すると、途方もない苦労だろうと思う。さまざまな愛の形、生きる形があるのだと感じた。
____
ある日、昼食を食べた後にシルバールインが演奏をしに行くと言って講堂へ向かった。
見に来るよう誘われたが、乗り気ではなかった。本を読もうとしおりのページを開くと、日差しが文字を照らして揺らめいていた。天気のいい昼間なのだから、日が差すのは当然なのだが、普段からこんなに明るかっただろうかと、気づかないほどの微細な違和感を持った。
窓を見上げてみると、ピアノの音が聞こえてきた。詐欺師だと、罪人だとは思えない繊細で静かで暖かな音色。光の眩しさと調和しているようで、少しの間、窓を見上げていた。
首が痛くなってから、ぼうっとしていたことに気づくと、本に目を落とす。
講堂は音をよく反響させて全てを包み込んでいた。安心するような、壮大で圧倒されるような、様々な側面を見せる音楽というものは不思議だと思う。
少し遠くから聞こえてくる音を聞きながら、顔も知らない作者の小説を読む。
しばらくして音が止まり、聴衆が何人か広間にやってきた。まばらに感想が聞こえてきて、穏やかな気分になった僕も彼の顔を見に行こうかと思った。音楽というのは感情を操れるらしい。
丁寧に後片付けをしているシルバールインが見える。扉が開く音で気がついたのか、気配で気がついたのか、僕がきたことはすぐ気がついた。
「嬉しい」
ただそれだけ言っていた。今来ても遅いのに、来ないと言っていたのに、何も言及しなかったのが少し不安だった。なぜ手放しに感謝ができるのか。
「どうだったかな」
感想を言いにきたのが分かっていたようだ。
「今日の日差しのように暖かく綺麗な音色だった」
別に音楽に明るいわけでもない僕は、曖昧な感想しか言えなかった。
「そう言ってもらえて嬉しい。聞いてくれた人の感想が一番嬉しいよ」
「別に、大したことは言ってない」
「音楽は感情と同じだよ。結局技術よりもどう感じるかが大切なんだ。演奏者も感情をのせているからさ」
「アンタは感情的な印象がないから、意外だ」
「そうかな、まあ、仕方ないか」
自嘲した笑いを浮かべては、片付けていたピアノをまた弾き始める。
「僕は、人を想って弾いているんだ。だから、優しく包み込むように、寒くないように、安心して天に行けるように」
孤児院にいた頃、教会から聞こえてきた音楽と同じだった。
「鎮魂歌を弾くにはまだ早い」
「やっぱり知ってるよね。よかったら近くに来ない?」
少し躊躇っていると、シルバールインが聞こえない声で何か話しかけてくる。聞こえないので近づくと、段々笑顔になって行くシルバールインを見てはっとする。
「ほら、ここに座ってよ」
近くに呼ぶのが目的だったようで、シルバールインが椅子の半分を開けるが、遠慮すると言って椅子の傍に座り込む。
「ずっと弾いているだけで居たらいいのに」
ただ静かな音楽を奏でて、佇んでいたら僕も楽なのにとラインハートは思う。
「救済制度の制約は守ることを前提に、聞いて欲しいんだけど」
ピアノを弾きながらシルバールインが話す。
「二人で教会を出ないかい」
「は」
急な提案に驚いてしまう。
「遠くに逃げたいんだ。南の土地の花がよく咲いている場所に」
「そんなこと言ったら、どうなるか…」
辺りを見渡すラインハートにシルバールインが言う。
「誰にも聞こえないよ」
余裕そうな笑みを浮かべてピアノを弾き会話をかき消していた。
「それに、お前は犯罪者だろう。信じられない、逃げるとなったら僕も追われる目に遭う」
「まだ警察がマトモに機能していると思うかい?」
「それは…」
奇病の流行により荒れた治安を統治する者もおらず、今となっては教会の権力が上がっている一方である。人が日々大量に亡くなって、少し早い世紀末に諦観しきった国だ。人員も減った警察が、たった一人の犯罪者を追うかと言えば、どちらかが病に臥すほうが先だろう。
「視界一面に広がった花畑を見たことはあるかい」
「昔、僕の家は花屋だったんだ、でも小さいものだ。花畑も本当に小さくて、そんなに大きなものは無い」
それに、全て戦争によって燃え尽きてしまった。もう、見る影もない。
「そうだったのか。花屋をしている君も素敵だろうね」
小さな花屋で子供たちに花を配る彼が目に浮かぶ。
「僕が育ったのは極北の土地でね、雪が降り積もって花なんて到底咲かなかったんだ。それから国中を旅もしていたけれど、南にたどり着くよりも先に捕まっちゃって、僕も見たことがない」
「花が見たいのか」
そうラインハートが聞くと、シルバールインが少しだけ早く瞬きをする。
「そう見つめられると照れるな。君の目は綺麗だね。透き通った翠色だ」
ふと落ち着いた声色になり、懐かしむように緑の双眸を見つめる。少し目を落とすと、願うように言う。
「君が望むのなら、僕は何だってできるよ」
「それは、僕の望みじゃなく、アンタの望みじゃないか。言い方が間違ってる」
そう、ただ君が『花が見たい』と言ってくれればいいだけなんだ。これまで、相手を想って甘言を吐いて愛を与えてきたのも、全部、自分のためなんだ。
「本当に穏やかな土地で暮らせるのか」
「そうさ、自然が豊かで、奇病のことなんて気にすることもない日常が送れる。誰もいない草原にぽつんと建っている赤い屋根の家で暮らすんだ」
「見たことあるのか」
「ああ、そうさ、だからこんな計画を立ててるんだよ」
もちろん嘘さ、だってこのくらい言わなければ君は安心できないだろう。人と蜃気楼の境の君は容易く消えてしまうんだ。
「僕は、この教会が少し苦手になってきたんだ。毎週必ず誰かが死んでいる。葬儀にも出て、埋葬されるのを当たり前のように見ては、また日常に戻る。こんなに疲弊する生活は、苦しいんだ。もう誰が死んだのか、誰が生きているのかの興味も薄れてきた。そんな自分も怖い」
「仕方がないこととも言えるよ。それはこの国全体が陥っている死への慣れだからね。変わったのは人だけで自然は何も変わらずに綺麗な海も空も花もある」
「もしも、この教会の空気から逃げて、死の恐怖からも逃げて、何も気にせずに暮らして、死ぬことができたのなら、幸せだろう。人が死ぬのを見るのはもう御免だ」
過去の戦争での記憶とも重なり、葬儀に参列し続ける日々は、ラインハートの精神に悪影響を及ぼし、恐怖や悲しみから奇病が進行するのを実感していた。
「花が見たい」
そう言って、ラインハートは俯いていた。顔を隠したかった。
「僕らで必ず見に行こう」
取り敢えずは、逃げ出すための準備と、ロコたちの様子を伺うだけだ。何か、教会内で騒動が起きて混乱を招くことはできないだろうか。
そう逃亡する計画を話していた数日後に、あの影のような化け物が現れた。いや、あの二人が教会について調べていたことを知っていたのを見る限り、ずっと前から僕達を見張ってたんだろう。
あの影が教会を飛び出していった。この騒ぎに乗じて逃げ出そうとラインハートの手を掴もうとする。しかし、その手は空を切る。突然のことに彼が動揺して透けてしまっている。立ちすくんでいる彼を連れて行くことが出来ない。次第に彼の肉体が戻ってきたが、こんなことはやめよう、と怖気付いてしまっていた。
「もし君が消えそうになったら、ちゃんと僕が殺してあげる。それに、さっきのあれを見ただろう、ここに居てもじきに同じ目にあってしまうだけだ」
「それは、嫌だ」
扉に向かって手を引いてみるが、先ほどから彼の体が明滅するように透けては戻っている。
「君の、ラインハート・ネーベルの名を言い続けてくれ」
自意識から彼が消えているのを感じていた。
ラインハートは必死に自分の名前を言い続ける。自分の存在をこの世に繋ぎ止めるために。
扉まであと少しのところで、扉が勢いよく閉まる。ああ、間に合わなかったのか。
外から飛び込んできたロコが二人の前に立っている。ロコが太腿に装着していたガンホルダーから拳銃を取り出す。普段の姿からは見えなかったそれに不意をつかれてしまった。普段見えないそれに不意をつかれた。しまった、そう思ったのも束の間、ラインハートの姿が消えてしまう。しばらくしたら戻ることは分かっているが、それもいつまでか分からなかった。そして次に体が戻った時に、彼が手を伸ばして悲痛に叫んだ。
「消えたくない!」
シルバールインは苦虫を噛んだような顔で、脱出するために忍ばせていた拳銃でラインハートのことを撃ち抜く。躊躇う暇などない、彼が消える前に、弾が彼に触れられるうちに撃たなければならなかった。
見事命中した。心臓に直撃だった。彼は幸運にも死体が残り、シルバールインに、もたれ掛かっていた。シルバールインは、計画が台無しになったことで、その場にゆっくりと座り込んだ。ラインハートを寝かせて、その顔を眺める。
「相手に頼まれて殺したのは初めてだなあ」
翠色の瞳を隠した綺麗な顔を見ながら言う。
「それ使ったことないだろう」
銃の構え方も扱い方も初心者だと見抜いたシルバールインがロコを見て言う。
「先に神父様はひとが殺せないって伝えてたらこんな早くに殺すことにはならなかっただろうな」
やはり、13回目の殺しなんてするべきではなかった。運が悪かったんだ。
「そんな顔しないで楽しみなよ」
ロコは、優位なはずなのに青ざめて落ち着きのない様子だった。本当に、人を殺したことがないのだろうな。黙りこくっているロコを置いて独白をする。
「まだ、半死体に話させてくれるんだね。
本当は、彼をここで殺したくなんてなかったんだ。彼は最後まで僕の愛を受け入れず、そして与えてくれなかった。彼を幸せにしたかったんだ、本当さ。もっと長く暮らしていたら、次第に幸せになってくれるかと思って、そう思っていたのに、君たちに邪魔をされたんだ」
膝の上の彼から目を離し、ロコを見る。
「許せない。だから、死ぬのならここで彼と共に死にたいんだ。死んだ後も彼に会って絶望させたいからさ」
そう笑うと、彼を抱きしめる。
「…ロコ、目的を忘れたのか」
扉を封鎖しているのはあの影のようで、扉の向こうから声が聞こえてくる。
「おぼえてる、おぼえてるよ、もちろん」
少し間を置いてから、わかってると呟くと、拳銃をシルバールインに向ける。
「最後まで君の綺麗な顔が見れて、嬉しかったよ」
鎮魂歌も弾けなかった、その後悔があるが、制約も守ったのだ。演奏の代わりに、言葉で伝えよう。
「愛しているよ」
銃声が響いた後、折り重なった二人の死体がそこにあった。
Relief execution
救済執行
Jasper: SilverRuin
Carnelian: Reinhardt・Nebel
End:The middle of a dream